驚き過ぎて一瞬悲鳴を上げそうになる。
明らかに私を待っていた様子だ。
でも私は素知らぬ振りでそのままフロアに向かい歩き出した。
背中に聞こえたのは囁くような挑発の言葉。

「直人ってね。会社にいる時とプライベートじゃ全然違うの」

何?
この人は何を言ってるの?

「会社ではクールに決めてるけど…プライベートではお茶目な所があって。そのギャップがまたいいの」

出来る事ならこの両耳を塞いでしまいたい。
本当はその声を聞く気すらないのだから。

「ねぇ…聞いてるの?」

「申し訳ありませんが仕事に戻ります」

「今夜時間ない?」

えっ?

「今夜…Rホテルで部長と、営業課長たちが私の為に一席設けてくれるの。あなたも…来ない?」

「偉い方たちの集まりに私なんかがお邪魔する訳には…」

「少しだけでいいのよ。あなたも出来る男たちの話、聞いてみたいでしょう?」

「別に私は…」

「そう?無理強いするつもりはないけど…久しぶりに同期が集まるから…羽目を外し過ぎなければいいんだけど」

桜井さんはそう言って、意味深な笑みを見せた。