「直人の事わかった風に言わないで。あなたより私の方が彼とは長い付き合いなの。お願いだから直人の足を引っ張るような事だけはしないでね」

直人…
あの人の名前を呼び捨てにした…。
やっぱり…噂は真実なの?

唇をギュっと噛み締める。
この人の言ってる事には何一つ証拠なんてない。

だから…
振り回されちゃダメ…

「ちょっと…失礼します…」

桜井さんと同じ空間にいる事に耐えられず、私は立ち上がった。
トイレに入りとりあえず個室の中で一人立ち尽くす。

はぁ…
本当に疲れるわ…。

どうしてなのかわからないけれど、桜井さんは敵意を剥き出しにして私を牽制している。

あの人と私の間に流れる空気はもう特別なものではない筈。
なのに…どうして?
どうして私が敵意を持たれなければならないの?

あっ…いけない…
いつまでもここでこうしてはいられない。
戻らなくては。
用を足してもいないのに水を流して個室を出る。
手洗いをしてトイレから出た所で桜井さんが立っていた…。