「そうねぇ…ここの担当者、まだ変わってない?」

桜井さんは一つの顧客のリストに目をやりながら私に尋ねる。

「はい…確かここはずっと同じ担当の方です」

「それなら…あなたみたいな人ならもう一歩踏み込めばもっと売れるわよ」

「どういう意味でしょうか?」

「ここの担当者はね、若い女性が大好きなの。接待でもして、ちょっとお酌するだけで今の倍は仕入れてくれると思うわ」

「…でも私には…そこまでは…」

「出来ないの?課長の評価にもつながるのに?」

あの人の評価に繋がるとしても…
そんな女を武器にしたようなやり方を、あの人が好むとは思えない。

「課長は…そういうやり方で仕事を取る事は望んでおられないと思うので…」

「そんなのきれいごとでしょう?どんなやり方だろうと、取ったモン勝ちじゃない。そういうの、偽善者ぶってて私は好きじゃないわ」

あなたの好き嫌いの問題ではなく。
課長がどう思うかが重要なんです。