そしてあの人が午後の顧客回りに出かけると、桜井さんは待ってましたとばかりに私の所にやって来た。

「あなた…上杉さんだったかしら?ちょっといい?」

「はい…なんでしょうか?」

「そんなに怯えなくても大丈夫よ、何も取って食おうって訳じゃないんだから」

でもその赤い唇はまるで赤ずきんちゃんに出てくる狼のようです…。

「女性の営業職が今後日の目を見る為にもあなたの仕事振りを是非拝見したいの。売上表や顧客リスト、見せてもらえるかしら?」

どうして?と尋ねる事も、タブーだと思った。
この人には逆らえないと思わせるだけの圧が感じられた。
私は仕方なく言われた通りの書類を差し出した。

「へぇ…結構大きな所をたくさん受け持ってるみたいね。でも…その割には売上がイマイチみたいだけど?」

「申し訳ありません…至りませんで…」

「そんなに卑下しなくてもいいわよ!誰だって最初からうまく行く訳ないんだから。仕事だけに限らず…ね」

どういう意味?
この人は何が言いたいの?