給湯室に入っても釈然としない気持ちになる。
お茶を淹れる事そのものが嫌なのではない。

庶務係の女性がいるから彼女だけにやらせればいいという考えは、私は持っていないから。
手の空いた人間がやればいいと思っているから。
でも桜井さんは明らかに何か意図を以て、私に命じたように思える。

湯呑みを盆に乗せてフロアに戻ると待ち構えていた桜井さんに部屋まで持って来るよう言われた。

仕方なく部長室に入ると、私の後ろで桜井さんがドアを閉めた。
すぐに出て行くからわざわざ閉める必要なんてないのに…
そう思っている私に挑むように桜井さんが言った。

「部長…。彼女、いい仕事振りのようですわね?」

「ああ。君にまで轟いてたのか?この子は安曇野くんの秘蔵っ子でね。めきめき頭角を現してくれている。伊藤くんと二人、一課の稼ぎ頭さ」

「部長にまで目をかけてもらえるなんて幸せね。課長もさぞ鼻が高い事でしょう。あなたもそう思ってるのではなくて?」

「とんでもありません。私なんてまだまだです…。早く…課長のお役に立てるような仕事が出来ればと思っております…」

「あら…もう充分信頼されているように見受けられたけど?」

「そこまでではありません…」

「そう?私の見立て違い?」

「多分…」

「ふーん。とりあえずそういう事にしておきましょうか」