あの人への思慕が断ち切れず、とうとう私は自分に課した禁忌を破ってあの人の携帯に電話してしまった。
留守電に切り替わってくれたのが唯一良かった。
とにかく事務的に、部下として心配している内容だけを吹き込んだ。
それすらも…あの人にとっては忌々しいだけかもしれないのに…。

翌日…いつもと変わらず出勤してきたあの人の姿に心の底から安堵している私がいた。
部長に真っ先に詫びている姿を盗み見る。

ああ…良かった…。
いつものあの人だ。
少し病みやつれてはいるけれど…
変わらず精悍で、逞しくて…
私ったら…見惚れていい立場でもない癖に…。

今日はあの人の同期で現在大阪支社で営業課長をしている女性が来ると聞いている。

噂に過ぎないのだけれど…
隣の課の女性が話していたのを偶然聞いてしまった。

その桜井という人は…
昔、あの人と付き合っていたんだと…。
しかもまだ桜井さんはあの人に未練を残していて、だからずっと独身を通しているのだと…。