『それで…綾。理由を聞かせろ。なんでお前が安曇野さんのトコに行けないんだ。あまつさえ鍵まで返して』

「どうしても…話さなければならないの?」

『ふざけんなよ!いくら俺がお前に甘い兄でも、今回のこれは頂けない。俺の事は…どうでもいい。けどな、安曇野さんとの事はこれでいい訳ないだろうが!』

穏やかな兄が声高に叫ぶのを…私はまるで他人事のように聞いていた。

「全て…私の了見が狭いからなの…。彼は…悪くないの…」

『そんな事は百も承知だ。どうせお前がくだらない嫉妬か何かをしてるだけだろ?安曇野さんの事好きになったんならそれくらいの覚悟は出来てると思ってたが…買い被りだったようだな』

「お兄さん…」

『もういい。お前がそこまで情けないヤツだとは思わなかった。悪いけど俺は今後一切お前の相談には乗らないからな』

「そんな…」

『それが嫌なら考えろ。あの人は…安曇野さんは一言だってお前を責めなかった。自分のせいだと言ってたぞ。お前…あんないい人にそこまで言わせて罪悪感ないのかよ?ほんっとに我が妹ながら呆れるわ』

「ごめんなさい…」

『謝る相手が違うだろ?俺には素直になれるのになんで安曇野さんには素直になれないんだよ?お前も親父と同じ人種だな』

「そんな事…」

『言っとくけど綾。俺はお前じゃなくて安曇野さんの味方だって事、忘れんなよ』

「お兄…」

そこまでで電話が切られてしまった。
あの温和な兄があそこまで私を叱責した事などなかった。

それほど…私の行いは最低だという事…。