結局兄は私の懇願に負けて従ってくれた。

いくらかのお金を渡すと、

「バカにすんな。お前から施しを受けるほど俺は落ちぶれちゃいない」

と叱られた。

「でも…あの人の事だから…」

「だったら後でちゃんと説明しろ」

「わかったわ…」

「じゃあな。行って来る」

「ありがとう…お兄さん…」

後から兄に聞いた話によると…
あの人は玄関に入ってすぐの所に倒れていたという…。

何てこと…
私の不安がこんな時に限って的中するなんて…。
兄は一人であの人をベッドまで運び、氷枕を用意し、水分補給のための飲料まで用意してくれたらしい。
行き届き過ぎの兄に有難くも申し訳ない思いが募る。
緊急事態だったから兄もあの時は何も聞かずにいてくれたけれど…。
そもそもこんなおかしな状況に納得しているとは思えない。
誰がどう考えても、本来病身のあの人の見舞に行くのは私。
それなのに兄に仕事を休ませてまで行かせるなんて。
非常識にも程がある。

兄はその夜、当然のように疑問をぶつけてくる電話を寄越した。