私を諭している間。
あの人の目は以前のような上司としてだけのもので、寄り添っていた頃のような熱を帯びていなかった。

その事実が容赦なく私に襲い掛かって…
はしたなくも職場で涙を流していた…。
慌てて拭い、何食わぬ顔で自席に戻ったけれど…
勘のいい伊藤さんには気付かれたかもしれない。
そう思わせるに足る、彼からの視線をこれでもかという程感じたから。
その視線は決して好奇によるものではない事もわかっていた。
彼が私とあの人を心配してくれいるからこそだという事も。

でも心に余裕のない今の私は、そんな彼を安心させてあげられるような言葉を掛ける事すら出来ないの。

一言でも話してしまったら…
きっと私は伊藤さんに何もかもぶちまけてしまうと思ったから。
そして彼をも、私たちのトラブルに巻き込んでしまうと思ったから。

優しい彼を巻き込む訳にはいかない。
彼は彼で、仕事も恋も一生懸命頑張っている。
私たちの事で悩ませるのは忍びない。
そもそも私が撒いた種なのだから。
私自身が刈り取らなければ解決しない。

わかってる…。
そんな事は…充分に…。

だけど…意固地な私は素直になれない心を捨てられない…。