翌日。
出勤すると綾子の行き先ボードには「欠勤」のマグネットが貼ってあった。
昨日の今日で俺と顔を合わせたくないのだろう。

だが仕事に対して常に真面目な彼女が今日休んだのはそれだけが理由ではあるまい。

恐らく…桜井が今日まで東京(こっち)にいるというのが最大の理由だろう。

本当に…アイツはとんだ厄介事を持ち込んでくれる。昔も今も俺にとっては関わりたくないヤツだ。

その桜井が何事もなかったかのように涼しい顔で俺に話し掛けて来た。

「お早う!昨夜はよく眠れた?」

わざとらしい…。何がよく眠れた、だ。
貴様のせいで眠るどころではなかった。
それがわかっていてわざと聞いているに決まってる。

寧ろ、昨夜綾子の心を乱したのはこうなるよう仕向ける為だろう。
間違いなく確信犯だ。

金輪際コイツと話したくなどない。
そう思って俺は無視を決め込んだ。

「なあに?無視するなんて子供みたい」

そうだった…。
コイツのしつこい性格なら大人しく引き下がる筈はないんだった…。
だから俺は仕方なく乱暴に言葉を放った。

「うるさい。お前としゃべると俺は何をするかわからんぞ」

「怖ーい!あの黒猫ちゃんとケンカしちゃった?」

黒猫だと…?
それは…綾子の事、か…?