階段を駆け上がり、綾子の部屋の前に立つ。
心臓を落ち着けようと深呼吸を繰り返しながら部屋のドアをノックした。

だが返事はない。
俺は思い切ってドアを開けてみた。
幸い施錠されておらず、いとも簡単にドアは開いた。

「綾子…」

綾子はベッドに突っ伏して泣いていた…。

驚きの表情で振り返った彼女の顔は…
涙でグシャグシャで…
漆黒の長髪も、涙が凍り付いたように額に張り付いていた。

俺は堪らなくなって綾子に駆け寄りその震える体を抱き締めた。

「綾子…すまない…」

「離して…」

「嫌だ!離さない!」

「離してッ!」

余りにも力いっぱい俺を振りほどく綾子の態度に驚愕と共に悲しみが募る。

「綾子…話を…聞いてくれ…」

「聞きたくない…」

「誤解だ、綾子。アイツの言う事は信じられるのに俺の言う事は信じられないのか?」

「聞きたくないって言ってるでしょう!出て行って!顔も見たくないの!」

「どんなに君が俺を疎ましく思おうとも、俺の気持ちは変わらない…。今でも綾子を愛している…。誰よりも…強く、深く…」

「だったら…もう私の前に現れないで!そっと…しておいて!」

「いい加減にしないか、綾子」

驚いて振り向くとそこにはお父さんが怒りの面持ちで立っていた…。