しばらくして玄関に灯りが灯り、中から上着を羽織ったお父さんが出て来た。

「安曇野さん?…一体何事ですか、こんな時間に?」

「失礼は重々承知で参りました…。綾子さんは…御在宅でしょうか?」

「はい…さきほど…戻りまして…なんだか様子が変で…家内が尋ねてもただ泣いているだけで…。安曇野さんと一緒かと思ったんですがいらっしゃらないし…」

「お父さん、申し訳ありません。一緒に接待に出ていたのですが綾子さんが途中で気分が悪くなってしまったんです…。送るつもりでいたのに気づいたら一人で帰ってしまっていて…私の配慮が足りずご心配をお掛けしてしまいました…」

俺はご両親にいらぬ心配を掛ける訳にはいかないと、虚言で誤魔化した。

だが…綾子…
君は桜井に相当傷つけられたのではないのか?

そんな君をそのままにして、ここで立ち去る事など出来る訳がない。

「お父さん!こんな時間に申し訳ありませんが、綾子に…綾子に会わせて頂けませんか!?」

必死な俺の様子に気圧されたのか、お父さんは後ずさりしながら「どうぞ」と言ってくれた。

「二階の階段を上がってすぐ右の部屋です」

「有難うございます!」