「…何だと?」

怒りを極限まで抑えたつもりだったが、自分のものとは思えない程重低音な声が出た。

「だから…理由は部下として彼女を育てたいだけなのかって聞いてるの」

探られたくない肚を容赦なく探ってくる桜井に辟易する。
早くコイツとの会話を終わらせたい。

「他になんの理由があるというんだ。お前こそ変な勘ぐりはよせ」

「勘ぐりねぇ…。あたし、昔から勘は鋭い方だったんだけど」

クスクスと笑う桜井に俺の我慢も限界に達した。

「とにかく俺が言いたいのはそれだけだ。邪魔したな」

俺はそう言って踵を返す。

「もう帰るの?」

桜井の言葉を無視して歩き出す俺に嘲笑混じりの桜井の声が響いた。

「彼女…健気な子ね…」

俺の脳内で『彼女』がすぐに綾子と結びついてしまい思わず振り向く。

「クスッ…なあに、その顔?あなたって昔から顔に出るわよね?ポーカーフェイスが苦手なのは変わってなさそうね…」

「何が…言いたい?」

「別に。変わってなくていいなって思っただけよ?」

「彼女に…何をした?」

「だから何もしてないわよ。可愛くて清純で…あたしとは真反対ね」

「そんな事はお前に関係ないだろう。話は終わった。俺は失礼する」

「あたしとは真反対だから…あの子を好きになったの?」