「そう言ってる張本人がいないじゃないか」

「なんか約束があるから小一時間ほど出るって言って出てったぜ」

そう言ったのは四課長の水野(みずの)だ。

「約束？会食があるのをわかってて約束だと？」

「どうも急に入ったみたいだ。いいじゃないか、桜井くんも久しぶりの本社で知った顔に会いたいんだろう。安曇野くん、残念な気持ちはわかるがまだ夜は長いんだ。なんなら二人で抜け出してもいいぞ～」

部長は酔って機嫌がいいためなのか、鷹揚にそう言った。

とんでもない。
誰が桜井と二人っきりなんかになりたいものか。
俺がアイツに会いたいのは、綾子の事を探る為だ。

桜井が戻るまで俺は腹ごしらえをする事にした。
幸い病み上がりだったから残った僅かな料理でも充分満腹になった。
部長と三人の課長は更に酒が進みほぼ酩酊状態だった。
この状況であれば、俺が桜井と密談をしても気に留めるヤツはいないだろう。

そこへ俺の目的の人物である桜井が戻って来た。