茶を置いたらすぐに戻って来るだろうと思っていたのに、綾子はなかなか戻らない。

何をやってるんだ?
まさか…
桜井が何か無理難題を押し付けてるんじゃないだろうな…。

俺は俄かに不安になって部長室へ行こうと立ち上がる。
向かいかけた所で出て来た綾子と鉢合わせた。

「上杉くん…大丈夫、か?」

「はい」

そう返事をしたものの綾子の表情は優れなかった。

俺も午後からまわらなければならない顧客があり、綾子の事が気になりながらも仕事を優先するしかなかった。

外回りを終えて帰社した時には綾子の姿はなかった。
だが伊藤くんはまだ残っていた。

「伊藤くん…ちょっと」

俺は伊藤くんをいつもの自販機の所まで誘った。
コーヒーを手渡して口を開く。

「教えてくれ。君が戻った時には綾…上杉くんはいたか?」

「はい。いましたよ」

「何か…変わった事はなかったか?」

「え…と…」

歯切れが悪くなった彼の態度で何かあった事は明白だった。

「何か…あったんだな?」

伊藤くんは珍しくその表情を曇らせて口ごもる。

「言ってくれ。頼む」