「あなたが淹れて頂戴」

「…私が?」

「何か問題でも?」

綾子は俯いて何かを考えている様子だったがすぐに立ち上がり「畏まりました」と言ってフロアを出た。

庶務係の女性が所在なさげに立っていると「もういいわ。仕事に戻って」と言い渡している。

コイツ、何を考えてるんだ。

「桜井。庶務係の女性がする事を何故別の人間にさせる?」

「あら。あの人も女性じゃない」

「女性が茶を淹れなきゃいけない決まりなどない」

「別にいいでしょ?そんな堅い事言わなくても」

「彼女は営業職員だ。やる事が沢山あって大変なんだよ。その為に営業課には一人ずつ庶務係を置いてるんだ」

「そうだったわね。大阪にはそういう係がいないから忘れてたわ」

嘘だ…。
コイツはそんな事を忘れるようなヤツじゃない。
覚えていてわざと綾子に茶を淹れさせたのだ。

だが…何のために?

すると盆を持って綾子がフロアに戻って来た。

「お待たせ致しました」

桜井は何事もなかったかのように俺に背を向け綾子に言った。

「部長室までお願い」

「はい」