ようやく桜井が部長の部屋に消えてくれ、俺は安堵のため息を吐いた。
気になって綾子の方を見たが、書類に目を落としていて俺の方を見てはいなかった。

桜井との会話は…
距離的に聞こえていただろうな…。

たとえ聞こえていたとしてもマズイ事はない。
たが昔の。
綾子の知らない俺の事が垣間見えたのは間違いない。
それを綾子が誤解しないでくれるといいのだが…

あ…
俺は何を思ってるんだ…。
俺と別れた綾子が気にするべくもあるまいに…。

そこへ部長が部屋から顔を出して大声を出した。

「すまんが誰かお茶を二つ持って来てくれんか?」

声を聞いてすぐに立ち上がったのはうちの庶務係の女性だった。
彼女が給湯室に向かいかけた時、桜井が出て来て言った。

「ちょっと待って」

庶務係の女性を止め桜井はスタスタとこともあろうに綾子のデスクに歩いて行く。

デスクの横まで行くと、驚いて見上げる綾子に言った。