会食を終え、本社へ向かう。

営業部のフロアに着くと桜井が大きな声で言った。

「懐かしいわ!あたしがいた頃と全然変わってない!」

「変わりようがないだろ」

「そうね…。安曇野くんも全然変わってないわ。んー寧ろ素敵に年をとったって感じ?」

「年とっただけ余計だ」

「年を感じさせないくらいカッコいいのは昔のまんまだけどね」

そう言って桜井は俺にウィンクをして見せた。
俺は無視してそのまま自分の島に戻った。

そこに、綾子の後ろ姿を発見する。

「お疲れ様…」

声を掛けると綾子が振り向いた。
…が、すぐその顔が曇った。
俺の後ろにいた桜井がいつの間にか隣にまで来ていた。

「ここが安曇野くんの城って訳ね」

そう言って勝手に俺のデスクへと歩いて行く。

「綺麗に片付けてるわね。昔みたいに」

「癖になってるだけだ。デスクを綺麗にしておかないと必要なモノをすぐに見つけられないと研修で言われたろ」

「もう何年前の話?よく覚えてるわね」

「大切な事は頭に叩き込んでおくべきだろう。お前は違うようだが」

「覚えなきゃいけない事は覚えてるわよ?安曇野くんの失敗談とか?」

「そんな事は忘れていい」

「もぅ…変わらないのね。そういうクールな所も素敵だけど」

「桜井。仕事の邪魔だ。お前はお前の用事があるんだろ?」

「これから部長と外回りよ」

「だったら部長室へ行け。ここで油売ってる暇なんてないだろ」