「お兄さん…何故…あなたが?」

「綾に頼まれてね。アイツも人使い荒いよなぁ。いきなりバイト先に押しかけてきて、安曇野さんが体調悪いから看病しろとか…。俺ってなんなの?って話ですよねぇ」

「あ…あのっ!綾子は…」

「綾?仕事に戻りましたよ。なんでも今日は一日中得意先まわりで自分は何も出来ないからって」

「そう…ですか…」

「それからこれ」

お兄さんが差し出したのは俺が綾子の為に作った合鍵だった。

「勝手に使ってすみませんでした。返しときます…」

「いや…それは…綾子の…」

「もう使わないって言ってたけど?」

「えっ!?」

「まぁ…色々聞きたい事山ほどなんですけどね…。安曇野さんの体調が悪いから今日はこの辺で退散します」

「あの…もしかしてお兄さんが俺をベッドまで?」

「さすがに重かったねぇ」

「申し訳ありませんでした…」

「いいのいいの。俺は大丈夫。あなたたちの方は大丈夫じゃないみたいだけど」

「面目次第もありません…」

「綾も何も言わないからさ。でもね、アイツ頑固だから…折れるなら安曇野さんが折れてもらえると…。そうじゃないと長引くか最悪…終わるよ?」

「…はい…承知しています…。というより…綾子さんから別れを宣告されたので…」

「えぇっ!?そうなの!?アイツ、そんな事何も言ってなかったな…」

「きっとお兄さんに心配をかけたくなかったんだと…思います…」

「原因は何?って、話するつもりじゃなかったんだった!とりあえず帰ります。また快復してから…聞かせて欲しいんだけど」

「わかりました…。今回の事は全て俺の至らなさから来た事です。綾子さんは悪くありません…」

「はいはい。一応そういう事にしときますよ。これ、俺の携帯。番号書いておきます」

お兄さんはそう言って、番号を書いた手帳のページを破った。