伊藤くんと駅で別れ、俺は帰路についた。

最寄り駅に到着した俺はコンビニに寄って食料を調達した。
味気ないメシは嫌でも綾子を思い出させてしまう。
綾子の作る料理はどれも優しい味付けでカロリーも抑えてあり、俺の体を気遣ってくれる思い遣りを嫌というほど感じさせてくれた。

玄関を開錠して中に入る。

「ただいま…」

誰もいないとわかっていながらも言わずにはいられない。
暗く寒い部屋の中。
綾子がいた痕跡を見事に消し去った部屋は俺にとってはもう廃墟のようなものだ。

ダイニングのテーブルに買って来たレジ袋をドサリと置き、俺はソファに腰をおろした。

はぁ…
今日はいつもの数倍疲れた…。

上司の俺として綾子を叱責したのは仕方がない事とはいえ、その後彼女が泣いていたという事実…。
それは叱責された事に対する涙なのか、それとも…

考えても仕方ない。
俺に出来る事は成田に言われたアドバイスを実践するだけなのだから。

立ち上がってダイニングに戻り、冷めきった弁当をただ義務感だけで胃に収めた。
風呂に入る事すら億劫だったがシャワーだけを浴びて髪も半乾きのままソファにゴロンと横になった。

ベッドへ行く気にはなれなかった。
ベッドに入ると嫌でも綾子の事を思い出してしまう。

今の俺にとってそれは拷問以外の何物でもない。
だから俺はなるべく彼女の事を思い出さないよう、ベッドではなくソファで眠っている。