「別にそんな事はない」

「そうかなぁ…」

「俺の事より君の方はどうなんだ?その後…元彼とかいう男は?」

「あぁ…大丈夫です。ちゃんとケリをつけたんで。向こうも納得して帰ってくれたし…」

「君が怪我をした翌日に聞いた事と変わりはないんだな?」

「ええ。あれから彼女の方にも連絡入れては来ないし。多分大丈夫です」

「そうか…それで彼女とは…進展しそうか?」

「う…ん…どうなんでしょう…。俺も将来の事を考えてはいますけど…彼女の仕事が忙しいし…。あんまり具体的には話が出てないんですよね…」

「君はどうなんだ?すぐにでも…一緒になりたいのか?」

「俺は…そういうのって成り行き任せっていうか…。縁だと思ってるんで」

縁? 成田が言っていた言葉を伊藤くんのような若者が使うとは…
新鮮な驚きだった。

「縁、か。なかなかいい言葉だな。縁が取り持ってくれるという訳か?」

「はい…単なる出会いとか別れとかだけじゃなくって…そういう…時期的なものとか…そういうのも縁が関係してるような気がするんですよ。焦って進めても全くうまくいかない事ってあるじゃないですか。そうかと思うと自分の意思と反してどんどん進んだり。それって縁が関係してるんじゃないかと思うんですよね。それに…あんまり一人で考えてると疲れちゃうし…。ぶっちゃけ縁のせいにして自分は楽してるってのもあるんですけどね」

伊藤くんは頭を掻きながら「ヘヘッ」と笑った。