俺は得意先に彼を紹介しながら、途中彼のまわる店舗に寄って荷下ろし作業などを手伝った。

帰社すると既に定時を過ぎておりフロアには彼女の姿はなかった。

「すいません…遅くなっちゃって…」

「まだそれほど遅くはないさ」

「でも…皆帰っちゃってますよ?」

「たまに早く帰れる時に帰らないとな」

「上杉さんも…帰ってますね…」

「彼女にも色々と用事があるんだろう」

「課長は…一緒じゃなくていいんですか?」

「四六時中一緒という訳ではないからな。君が心配する必要はないし、罪悪感を抱く必要もない」

「それなら…いいんですけど…」

「何か腑に落ちない様子だな?」

「いえ…これっていう…確証がある訳じゃないんですけど…。課長…もしかして上杉さんと…ケンカでもしました?」

相変わらず勘の鋭い伊藤くんだった。

一瞬彼に現状を話してしまおうかとも思った。
だが聞いて気分の良くなる話でもない事を言うのはやはり、躊躇われた。
優しい彼が心を痛めるのは俺の本意ではないから…。