「課長…」

「どうした?」

「なんでそんなに冷たいんですか?」

「冷たくなんてないさ。仕事をする上では常識だ。これが彼女でなくて君だったとしても、俺は同じように注意するぞ」

「でも…」

「実は俺の携帯には連絡がなかった。彼女のミスだ。馴れ合いになっていたと思われても仕方がないだろう」

「連絡…なかったんですか?」

「そうだ。だがな、例え連絡していても、電話で済むという前例を作ってはいけないんだよ。誰もが一度社に戻るのは面倒だ。自宅近くの得意先に行っていれば猶更だ。社用車を使っていなければ車を返却する必要もない訳だからな。だが、誰もがそれをしたらどうなると思う?きちんと仕事をしたかどうかすら疑わしくなる。営業職員はある程度自由を与えられてはいるが、それにも限度というものがあるんだ」

「確かに…課長の仰る通りだと思います…」

「下手をすると今後、電話ですらなくメールやその他のツールで済ますという事にも発展しかねない。それを許している会社もあるとは聞くが…うちはまだまだ体質が古いからな。そうはならないだろう」

伊藤くんはそれ以上何も聞いては来なかった。