受話器を置いた後、冷や汗が噴き出るのを必死に止めた…。
手にも嫌な汗をかいている…。
これだけでもう瀕死状態とは…情けな過ぎる…。

「コンコン…」

「どうぞ」

「失礼致します」

綾子は会釈をして入って来た。

「そこの席に座って下さい」

俺は自分が座っている真向かいの席に彼女を座らせた。

「話というのは昨日、君が直帰した事です。伊藤くんには連絡したそうですが、私には連絡がなかった。どういう事か説明してくれるか?」

「え…っと…それは…」

「やむを得ない理由を除いて営業職員の直帰は原則認めていない。それを踏まえた上で敢えて直帰をしたのは正当な理由があるからか?」

「……」

「黙っていたのではわからない。君は正当な理由なしに上司に報告もせずに直帰したとみなしていいのだね?」

「…申し訳ありません…」

「今後は控えてくれたまえ。皆の前で示しがつかない。それと、必ず上司である私にも一報して下さい。同僚の伊藤くんにも迷惑をかける事になる」

「わかりました…」

「話は以上です。仕事に戻って下さい」

綾子はすぐに立ち上がろうとはせず、座ったままだった。