綾子と俺の縁を信じる。
ちょっとやそっとでは切れないピアノ線のような縁だと。

まずは成田が言ったように会社での俺の立場を全うする。
上司として俺は彼女に一言モノ申さなければならない。

俺は小会議室から彼女のデスクの内線番号を押した。

『はい。上杉です』

久しぶり過ぎる愛しい彼女の声に決意が揺らぎそうになる。
だがここで負けてはダメだ。
俺は自分を奮い立たせた。

「安曇野だ。話がある。第三会議室に来てくれ」

『なんのお話でしょうか?会議室でなければいけませんか?』

あくまでも俺と二人きりになるのを避けるつもりなのか…。
公私混同する筈もないのに、綾子の頭の中ではその判別すら出来なくなってしまったのか。
それならば俺は鬼上司に徹する他あるまい。

「周りの者に聞かれてもいいなら君のデスクへ行こう。業務上の注意を受ける姿を見られても平気ならばそうするが?他の皆に示しをつける為にはむしろその方がいいな。わかった。今から戻る」

『いえっ…!わかりました!伺います…』

「そうしてくれ」