少し自虐的な物言いに聞こえたのか、伊藤くんの声のトーンが落ちる。

「え?そうなんです…か…?」

「俺も君と同様、腹を割って話せる友人が少ないんだ。だから俺も君を頼りにしている。これからも宜しくな」

「勿論です!うえ、…いえ、彼女に聞きにくい事とかあったら俺に聞いて下さい!なんだったら俺も彼女に聞いてみますから!」

屈託のない笑顔でそう言われ俺は苦しみに拍車がかかった。
伊藤くんの提案を素直に呑む事が出来たらどれだけいいだろう…。
綾子に聞きにくいも何も…その綾子が俺から離れて行ってしまったのだ…。
俺にはもう、彼女の事で悩む事すら出来ない…。

約束の時間より五分ほど早かったが俺は待ち合わせのRホテルのロビーにいた。
ほどなくして懐かしい姿が見えて来た。

成田は相変わらず若々しく、髪も明るく染めスタイルも衰えていなかった。

「よう!安曇野!待たせたな」

「いや、俺も今来たばかりだ…。なんだお前。仕事じゃなかったのか?」

「仕事だよ?」

「仕事なのにその恰好はなんだ?」

「俺らみたいなのはスーツなんか着ねぇの!ジーンズとシャツ、セーターでも正装なくらいだっつーの」

「そんなものか…」

「お前は変わんねーな」

そう言って成田は笑った。
俺もつられて笑顔になる。