「課長?」

「うん…。上杉くんには俺から注意しておく。よほどの事情がない限り、直帰はさせていないのだからな。誰もがそのルールに則って仕事をしているのだから、彼女だけ特別扱いする訳にはいかないだろう」

「まぁ…厳密にいえばそうですけど…。だから俺にも連絡したんだと思いますよ?公私混同してるなら課長にだけ言えばいいんですから」

伊藤くんは俺と綾子が恋人同士のままだと思っているからそんな風に言うのだ。
当然誰にも言っていないのだから彼も知る筈はないのだが…

「君の言う通りかもしれないが…、仕事は仕事だ。プライベートを持ち込んだりしては示しがつかない」

「課長と上杉さんの問題ですから、俺はいいですけど…。ちょっと最近お互い堅くなり過ぎてません?意識し過ぎると返って不審に思われますよ?」

それは…別の理由なんだよ、伊藤くん…。

公私混同するのを避ける為ではなく、俺と綾子の関係が破綻してしまった故の事なんだ…。

「君に変に気を遣わせてしまって申し訳ない…。今後は気をつける」

「いいんですって!俺ね、課長と恋バナが出来るようになって嬉しいんです。俺ってあんまり親しくしてる友人がいなくて…。まぁ、同期の折原(おりはら)にはなんでも話せるんですけど、たまには違う人の意見も聞きたいじゃないですか。その時に聞けるような人がいないんですよね。だから畏れ多いですけど…課長がそうなってくれるといいな…って。あっ!すいません!俺の勝手な希望を…」

「いや…いいんだ。ありがとう。俺なんかにそこまで言ってくれるのは…伊藤くんくらいなもんだ…」