俺は少しだけ気分が良くなり社に戻った。

するとうちの課の島に彼女の姿が見えない。
まだ外回りから戻っていないのか?
それにしては…もう既に定時を過ぎているじゃないか。

行き先を記したホワイトボードには、「十七時帰社予定」となっている。

俺は気が気ではなかったがそれを表に出す訳にはいかない。
さり気なく小銭を持って伊藤くんの席に近づいた。

「伊藤くん、ちょっと」

肩にそっと触れ小声で囁くと伊藤くんは軽く頷いて席を立った。
廊下の突き当りの自販機でコーヒーを買い、彼に渡す。

「すいません…えっと…」

「代金はいい。これくらいは上司の務めだ」

「いつもすいません…。頂きます…」

「あのな、今日は綾…いや、上杉くんはどうした?」

「あれ?課長聞いてなかったんですか?上杉さん、帰社予定を変更して直帰にされたんですよ。課長には直接言うからって言ってたのに、聞いてないんですか?」

直帰だと?
どういう事だ…?俺は何も聞いていない…。