お母さんも隣で微笑んでいる。

綾子は自室に引き上げてしまったのか、俺を一人で放置したまま戻って来る事はなかった…。

「では、お父さん、お母さん。夜分に失礼致しました。おやすみなさい…」

「お気をつけて…。いつでもいらして下さいね」

笑顔で綾子のご両親に見送られ、俺も笑顔で頷き返してから車に乗った。
ご両親の前で演技出来たのは仕事の一環だと肚を括ったからだ…。

そうでも思わなければ俺はこの苦しみを逃れさせる事など出来なかった。
仕事だと思う事で私情を一瞬でも捨てる事が出来た。

これからどうしたらいいのだろう…

最愛の綾子を失って…
俺はさっきの言葉通り生き地獄を彷徨う事になった。

職場では綾子に会えるが…
それが返って辛いのは目に見えている。

愛しい人を眼前にしながら職務上の立場でしか接する事が出来ないのだから…。

綾子は一体何を考えているのだろう。
俺の告白に呆れて、俺という男を見限ったのだろうとは思うが…

それにしてもあんな短い時間でそこまで決意したというのか…

それまでの俺たちの濃密な時間を捨てられる程
綾子は俺に愛想を尽かしてしまったというのか…?