「…綾子…。やはり…信じてはもらえないのか…？」

「信じたいわ…。でも…まだ私の中で釈然としないものがあるの…。私は一度家に帰ります…」

「綾子…」

俺はまさかの結果に気が狂いそうになった…。

お父さんに許しを得たその日に…
最愛の綾子を手放す事になろうとは…

結局ホテルはキャンセルし、一度俺の自宅に戻ってから綾子を実家に送って行った。

不意打ちに驚いているご両親に綾子が言った。

「お嫁に行くまでしばらく親孝行しようと思って」

俺は綾子が何を言おうとも彼女に話を合わせた。

たとえこのまま永遠の別れになってしまったとしても…
今はまだご両親を悲しませる訳にはいかない。

お父さんはいいように勘違いしてくれて俺に言った。

「安曇野さん…何もここまでして下さらなくても…」

「いえ…始まりが順番違いでしたので…このくらい致しませんと誠意をお見せ出来ません。それに綾子さんが言うように、残りの時間をご両親と一緒に…過ごして欲しいのです…」

「ありがとう…ありがとう…」

お父さんは涙ぐみながら俺の両手を自分の両手で何度も何度も握りしめてくれた。