「まだ時間はたっぷりあるわ。私ね、一度じっくり聞いてみたかったの」

「何を?」

「あなたの女性遍歴」

「へっ?」


この…状況で…いきなり…そんな話をしろと?

俺は戸惑いを隠せず思わず反論しそうになった。

いや…ダメだ。
俺は常に綾子の意思を重んずる。
どういう状況だろうがそれは俺自身が神に誓ったのだ。

俺はベッドから降りて居ずまいを正し、綾子の向かい側に座った。
さながら今から始まる裁判に臨む被疑者の気分だ。

だが俺は無罪だ。
臆する事はない。何を詰問されようと、捻じ曲げた証拠を提示されようと、事実を述べるだけだ。

綾子が聞きたいのは女性遍歴。
はっきり言ってしまうと俺の記憶は鮮明ではない。

というのも、これまでの恋愛では自分から進んで付き合った事がないのだ。
相手から告白されてその時の流れでなんとなくというパターンが圧倒的に多い。
だから綾子にその時の心情を尋ねられても曖昧にしか答えられなかった。

そんな俺に業を煮やし、綾子は更に深く追求してきた。

交際相手の数については、俺の言った数が一般的に多いのか少ないのか伊藤くんに聞いて来いと宿題にまでなってしまった。

だが綾子はそれだけで納得できなかったのだった。