綾子の言葉にお父さんがすっかり勘違いをしてしまったようで…

「もしかしてお前…もう?」

既成事実があるのかと思われても仕方のない先ほどの綾子の発言だった。

だが綾子はきっぱりと否定する。

「違うわよ!そういう意味じゃなくて…。お父さんとお母さんの希望を叶えてあげたい…娘としてそう思ってるというだけ…」

お父さんは嬉しそうに目尻を下げた。

「綾子…ありがとう…。それから…安曇野さん。本当に健康には留意して下さい。やはり…年の事を言って申し訳ないが…綾子が悲しむ姿は見たくないのでね…」

「肝に銘じておきます…。私も…少しでも長く…綾子さんと一緒にいたいので…」

しみじみと話す俺にとうとう綾子がキレた。

「もぅ…!どうしてお父さんと直人さんは目出度い時に悲観的なの!?私の方が先に死ぬかもしれないでしょう!?そもそも、そういう話はしないで!悪い事は考えない方がいいのよ!なんでもポジティブに考えなきゃダメなの!」

確かに綾子の言う通りだ。

どうなるかわからない未来の事を悲観的に捉える必要はない。
お父さんもそれに気付いてくれたのだろう。
目尻を下げ、綾子を見つめて言った。

「やはりお前は…強い子だ…。私に似ないでくれて本当に良かったよ…」