綾子は感極まって涙を滲ませながら必死に訴えた。

「でも…でも私は…直人さんじゃなければダメなの…。直人さんと結婚出来ないのなら一生独身を貫きます…」

「綾子…それはわかった…。私も安曇野さんの話を聞いてみて、納得した。お前が好きになった人だ。もう…何も言わんよ…」

「お父さん?…本当に?」

お父さんは優しく目を細めて頷いた。

「ありがとう…ありがとう、お父さん…」

「幸せになれよ…」

綾子はお母さんの傍に行き、二人で泣きながら抱き合った。

はぁ…
どんなプレゼンよりも緊張した…。
一世一代の大舞台を終えて…脱力しそうだ…。

「安曇野さん…」

お父さんが俺に声を掛ける。
力を抜いていた俺は再び居ずまいを正した。

「はい…」

「娘を…綾子を頼みます…」

「お父さん…。ありがとう、ございます…。ご両親が慈しんで育てられた綾子さんを…必ず幸せにします…私の全てを賭けて」

「ありがとう…。ですが…老婆心だと思って言わせて下さい…。一日でも早く…子供を…」

「えっ?」

「子供を…綾子に産ませてやって欲しい…。もう三十になります…。育てていく事を考えれば…遅すぎるくらいだ」

「…出来る限り…二人で相談しましてから…」

そこで綾子が断言した。

「大丈夫よ。すぐに出来るわ」

綾子… 
君はなんという…ご両親の前で…

恥ずかし過ぎて…
顔を上げられないじゃないか…。