「安曇野さん」

ようやくお父さんの声が聞こえた。
俺はお父さんの目を真っすぐに見た。

「はい」

「無礼を許して欲しい…」

「え?」

「あなたに言った事だ。随分と失礼な事を…言ってしまった」

俺は急に態度を軟化させたお父さんの意図が読めずにいた。
お父さんは続ける。

「家内から綾子に恋人がいて、その人が会社の上司であり、一回りも年上だと聞いた時は…まさかと思いました。この子は奥手だからと安心しきっておったのです…。恋人がいるなどとは夢にも思わなかった…。ましてそれが一回りも年上の上司だとは…」

「好きになってしまったのだから仕方ないでしょう?上司だろうが一回り年上だろうが関係ないわ」

「綾子の気持ちはわかった…。でもな…親というのは娘に少しでも不安な材料のない所へ嫁に出したいものなんだよ」

「だから!どんな相手でも百パーセント安心なんていうのはあり得ないの!」

「そうだな…。だが親は皆情けないくらい、色々勘ぐってしまうものなんだ。特に娘を嫁に出す時はな…」

俺はお父さんの気持ちが胸に重く響いていた。

不器用な父親の娘に対する精一杯の愛情が…
感じられた。