「上杉(うえすぎ)くん、すまないね。仕事中に」

穏やかな笑みを浮かべるのは人事部研修教育担当課課長の磯貝(いそがい)さん。

確かそろそろ五十路になるくらいの年齢だったと思う。

柔和な笑みを浮かべる目尻にはくっきりとした皺が刻まれ、彼の生きて来た年数を思い知らされる。

厳しい教育担当課の中で、彼はその面持ち通り、優しく社員を指導する人として定評があった。

「いえ…。今の時期は比較的落ち着いています。来年早々、二年目の社員の研修がありますからその準備を入念に進めているだけですし…」

「…うん…、確かに今は少し閑散期だな…」

そう言ったきり黙る課長。

私はどうして自分が今ここに呼ばれているのか理解に苦しんだ。

すると課長がその表情を少しだけ厳しくし、私を見据えて言った。

「上杉くん…。実はね。君に異動の話がある…」