「綾子…それは違うな。お父さんは戦っていなかった訳じゃない。自らを奮い立たせて必死に戦っておられたんだ…。結果的にライバルは自滅してしまったが、不戦勝ではないよ。立派に戦われて、その戦いに勝ったんだ」

「お父さんは何もしていないじゃない?その人の悪事がバレたのは単なる偶然に過ぎないわ」

「その人と直接対決した訳じゃなくても、お父さんは惜しまず努力されていた。一方で、前島という人は交際している人がいるにも関わらず平然とお母さんの婿候補になった。お母さんに対してどちらが誠実かは、一目瞭然じゃないか?」

綾子は黙ってしまった。

詳細を知りもしない俺が、知ったかぶって言ったのが悪かったのだろうか…。
だが俺の想像は間違いではないと思う。
お父さんはとてつもなく不器用なだけで、お母さんへの愛情はとてつもなく深い気がする…。

単に自分の出世欲だけで頑張ってきたとは思えない。

「でも…無事に結婚出来たんですからその後まで必死になる事はなかったんじゃありませんの?」

お母さんが質問するとお父さんは苦渋な面持ちで言った。