「それはそうだ。私も初めて話すのだからな…。義父(ちち)に言われたんだ…。娘と結婚したければ教授になれと。そうでなければ結婚は認めないと…」

「そんな事を父が？」

「教授の娘婿がいつまでも准教授のままでは恥ずかしいと言われた…。娘と本気で一緒になりたいのなら…男を見せろと言われたら…やるしかないだろう」

「私には何も言ってなかったのに…あなたにそこまで言っていたんですか…」

「ああ…。お前は覚えているかどうかわからんが、あの当時、俺の同期で教授に一番近いと言われていたヤツがいた。義父は初め、ソイツとお前とを縁組させようと考えていたんだ」

「あなたの同期？…もしかして…前島(まえしま)さんの事かしら？」

「その前島が…お前にアプローチしているのを知って…俺は焦った。そしてヤツを蹴落とす為に必死だった…」

またもや綾子が口を挟む。

「でも結局はお父さんと結婚したんだから、認めてもらえたのでしょう？」

「それは…アイツが…前島が…お母さんの婿候補でありながら別の女性と交際していたのが義父にばれて…それで仕方なく私が繰り上げ当選したんだよ…」

「不戦勝だったって事？」

俺は綾子の言葉が引っかかり、思わず口を挟んでしまった。