綾子のお母さんの話を聞いていて、俺は思った。

男とは元来不器用な生き物だ。
お父さんは家庭に協力して来なかったかもしれないが、仕事に邁進する事で家族を守ろうとしたのではないか…。

「お母さん…ちょっと…宜しいですか?」

話の腰を折るようで気が引けたが、ここは男である俺が言わなければならないと思った。

「何ですか?」

「はい…。お母さんが子育てに孤軍奮闘されていたのはよくわかりました。でも、お父さんは、お父さんなりに家族を守っていたのではないでしょうか?」

お母さんは怪訝な表情で俺を見ている。
計画にはなかった俺の言動に戸惑ったのかもしれない。
だが、ここでやめる気は毛頭ない。

「確かにお母さんの手伝いを直接的にはされなかったかもしれません。でも。働いて経済的に楽をさせてあげたいと思うのも、男としてはよくわかるんです…。今とは時代が違います。今はイクメンとかいう、子育てに協力的な男が持て囃されたりしていますが…お父さんの時代はまだまだ、子育ては女性の仕事という風潮だったと思います」

「安曇野さんの仰る通り、私の若い頃は、男は仕事、女は家庭と誰もが思っていたわね。私の育った家でもそうでした。父は教授でしたし、忙しい人でしたから、母が外で仕事なんて出来ませんでしたしね…」

「もちろん、私の育った家庭もそんな感じです。父は母が働くのは世間体が悪いとも考えていました」

そこで綾子が疑問を口にする。