お母さんの鋭い質問にお父さんは沈黙を貫いている。
俺は気が気でない思いで二人のやりとりを見守った。

「黙っていると言う事は肯定と受け取って宜しいわね？だったらあなたの方が安曇野さんよりよっぽど小賢しいわ。私には愛情がないという事ですものね？」

「違う…」

「え？何が違いますの？」

「愛情がなければそもそも交際など申し込んではいない」

「そうでしたわね。父の右腕として度々うちを訪れていたあなたの方が、私を見初めたんですから。でもそこに打算がなかったと、言い切れますの？」

「ゼロでは…なかった。あわよくば、とは思っていた…」

「やはりそうでしたの。でもあなたの誤算は、父がすぐにうんと言わなかった事ね」

そこで綾子が口を挟んだ。

「反対されたの？」

「ええ。今あなたが反対されたのと同じ理由でね」

「年齢の差の事？」

「それと、この人の能力かしら。学問は極めているが、人望がないと、父に言われたのよね？覚えておいでですか？」

「……」

「いくら教授の娘である私と結婚しても、この世界は縁故だけで上り詰められるほど甘くない、そうも言われたわね？」

「……」

「だからあなたは必死に頑張った。結局最後は父に許してもらったけれど、結婚後も家庭を顧みないほど頑張ってたわよね？」

「……」

「だから私は和明も綾子もたった一人で育て上げました。あなたの協力など得ずに」

「お母さん…。大変だったのね…」

「ええ、とても大変だったわ。だから安曇野さんに協力しろなんて言える立場ではないのよ」