『また』とはどういう事だ?

綾子は過去に見合いをさせられていたのか?

「お前に相応しい相手を勧めて何が悪い?それがたまたま私の関係者だというだけだ」

「違うわ。お父さんは派閥抗争の貢ぎ物として私を差し出すつもりなのよ!教授の息のかかった誰かに私を嫁がせて、自分の立場を磐石(ばんじゃく)にしたいだけでしょう!?」

綾子は興奮するあまり涙を流している。

これは…仕事より厄介だ。
いつまで経ってもこの水掛け論は終わらない。

こうなったら最後の手段に出るか…。
俺は土下座をしてお願いしようとソファから立ち上がる。

そこで俺を咄嗟に止めたのは、お母さんだった…。
立ち上がった俺の肩にそっと手を置き、首を左右に振って見せた。

「あなた。さっきから聞いていれば綾子の言う通りね。とんだ策略家ですこと。学内の派閥抗争の為に娘を使おうと思っているなら、安曇野さんが何を言っても聞かない訳よねぇ。でもどうなのかしら?私との結婚も、出世の為でしたの?」

え?どういう事だ?

俺と同様、綾子もお母さんの発言を不審に思っているようで、質問を投げかける。

「お母さん、どういう事?」

「綾子…あなたのおじい様、私の亡くなった父はこの人の先輩だったの。その当時教授で…学部内でかなりの力を持っていた。父に気に入られれば、助教授…准教授ね、その夢も夢じゃなくなる。だからあなたは私に交際を申し込んだのかしら?」