俺は何も言い返す事が出来ず、唇を噛んだ。
だがこのまま黙り込んでいてはいけない。
なんとかして起死回生の言葉を頭脳の抽斗から取り出さなければ。

考え巡らせていると、救世主が静かに言った。

「あなた…。確か私とあなたも一回り、とまではいきませんけど(とお)は離れておりますわよね?」

えっ?
それは…耳寄りな情報だ…。

そんな事、綾子は一言だって言ってなかったな…。

「それがどうした」

「どうしたと言う事はないでしょう?あなたは私と結婚する前、うちの両親になんと仰いましたかしら?」

「そんな昔の事は忘れた」

「都合の悪い事は全部お忘れになるのね。いい性格ですこと…」

「いい加減にしないか、客人の前だぞ」

俺もハラハラしていたが、娘である綾子は初めて聞くだろう事実に驚愕している。

そして沸々と怒りを滾らせた綾子がお父さんに言った。

「どういう事なの?説明して下さい」

「お前は同じ事を何度言わせる?お前には関係のない事だ」

「関係ない?今まさに私と直人さんの結婚の障壁が年齢だと言ったでしょう?関係ないどころか大有りだわ!しかもお母さんと十歳も離れてるですって?私は小さい頃から五つしか離れてないと思っていたわ。それは何故なの?」

綾子の質問に答えようとしないお父さんに代わってお母さんが口を開いた。