「ごめんなさいね、お茶を用意していたものだから」

お母さんはそう言って俺の前に客用の茶托にのせた茶碗を、お父さんの前には大振りの湯飲みを置いた。

「たったこれだけ用意するのにえらく時間がかかるんだな」

お父さんがお母さんに嫌みを言ったので俺は少々焦ってしまう。

「ええ。高級なお茶ですからね。時間をかけて淹れる必要がありますの」

「そんな高級な茶なのか?いつもと同じ香りだが」

「あなたのはいつものです。安曇野さんのだけ高級茶ですわ」

なんですと?
俺のだけ高級とはこれいかに…。

お父さんの顔が見る見るうちに険しくなる…。
お母さん…あなたは僕の助け舟ではなかったのですか?

「まあいい。たかが茶一つの事で騒ぐのはみっともないからな。それで安曇野さん、結婚を前提にと言われるが、はっきり言わせて頂くと、あなたの年齢を考えると綾子が幸せになれるとは思えないんです」

「それは…私が彼女より先に逝ってしまうかもしれないと…いう事ですね?」

「当然でしょう。日本人の平均寿命を考えても男は女より早く死ぬ。およそ十歳近く差がある事はあなたもご存じでしょう」

「はい、存じております…」

「ならばどうして一回りも下の綾子を選ぶのです?綾子はまだ若い美空で後家になるかもしれないのですよ?」