「まあどうぞ、掛けて下さい」

「はい。失礼致します」

俺はお父さんと向かい合う形で上座を勧められた。

綾子が俺の隣に座る。

心持ち近すぎる気がするが、それは即ち彼女の心の不安を表しているのだと推察した。
だが目の前にいる彼女の父親はこれをどう思うのだろうか…。

「綾子…もう少し離れて座りなさい」

ああ…やはり…
そこを指摘されるか…。

「どうして？別にいいでしょう？」

「良くない。はしたないとは思わんのか、嫁入り前の娘が」

「この人はあたしの恋人よ。知らない人ならいざ知らず近くに座っていても不思議はないでしょう？」

「相変わらず口の減らないヤツだな。もういいお前とは何も話さん」

綾子…頼むから出鼻を挫かないでくれ…。
しかも正式な交際のお許しを得ていない段階で、『恋人』と言ってしまった…。

まずは許可を頂いて、という俺のプランは見事に打ち砕かれてしまう。

「安曇野さん…と仰いましたね。今綾子が言った事は真実ですか？」

「はい…先にお伺いを立てなければならない所でしたが事後報告になり、申し訳ございません…」

「その事は別に構いません…。ただ、あなたは娘をどのようにお考えかな？」

「それにつきましてもお願いがあります。綾子さんを私の生涯の伴侶に頂きたいと思っております。結婚を前提にお付き合いさせて頂きたいのです」

「なるほど…。家内から聞いたがあなたは娘より一回りも年上で、会社では娘の直属の上司だそうですね。ホテイビールは社内恋愛に随分と甘いようにお見受けするが？」

ええ…と、いきなりそこですか…。
というより、お母さんはどこへ行かれたんでしょうか？