俺は詰問しようとする綾子の腕をそっと掴んで止めた。

「大丈夫…。お母さんにお任せしよう…」

「直人くん…」

「ホホ…やっぱり安曇野さんは大人ね。綾子、あなたも未来の旦那様を見習いなさいな。落ち着かないと失敗するわよ?」

「お母さん…縁起でもない事言わないで…」

お母さんについて前室から廊下へ出る。

長い廊下は広縁としても使用できるようだ。

廊下に填められている窓は大きく、庭が一望出来る。
そこから見る景色はまるで一枚の風景画だ。

廊下の突き当りの部屋の襖を開けると中に洋風の応接セットが置いてあり、一人の初老の男性が難しい顔つきで座っていた。

この人が…綾子のお父さんか…

なるほど、聞きしに勝る厳格な面持ちだ。

「あなた。いらっしゃいました」

「ああ」

お母さんの後ろからまず綾子、そして俺の順に部屋に入る。

「失礼致します…」

俺の言葉を合図にお父さんがソファから立ち上がった。

上背があり、細身ではあるが全身から知性を感じさせる佇まいだった。

「初めまして…私安曇野直人と申します。本日はお時間を頂戴致しましてありがとうございます」

俺はそう言って最敬礼をした。

「綾子の父です」

「どうぞ宜しくお願い致します…」