綾子の実家へ訪問する日。

俺たちは手土産を購入して自家用車で実家へ向かっていた。

綾子は緊張しているのか普段より口数が少ない。
彼女を支えてやらなきゃならない俺の方も、緊張して無口になっていた。

綾子の道案内で到着した家は昔ながらの大きな二階建ての和風家屋だった。

庭も広く、様々な庭木が植えられている。
小さな池には錦鯉が悠々と泳いでいる。
灯籠や鹿威しまである…。

マズい…。
緊張が高まってきた…。

家の外観は静謐ではあるが、何故か緊迫感が漂う。
恐らく俺自身が緊張し過ぎているからだろうが…

玄関を開けて中に入ってもその緊張は続く。
見事なまでに磨き上げられ黒光りする式台から上がり框。
目の前にある約三畳ほどの畳の間は前室か…。
こういう間取りは昔の旧家に多いと聞いた事があるが…

「いらっしゃい、ようこそ」

綾子の母が笑顔で出迎えてくれる。

「お母さん…それでどんな感じなの?お父さんは」

「綾子ったら…お母さんに任せてと言ったでしょう?」

「だって…不安じゃない。何も準備してないのよ?」

「その方がいいのよ。予備知識が邪魔する事もあります」

「何なの、それは?」