そしてお母さんから綾子の携帯に連絡があったのは、会食してからおよそ一週間が経った頃だった。

金曜日はいつも二人で外食と決めている俺たちは綾子のお気に入りの店に来ていた。

「それで…お母さんはなんて?」

綾子はスパークリングワインを飲みながら少しだけ眉間に皺を寄せて答える。

「それがね…。今度の日曜日うちに来てくれと言うのよ…」

「来てくれって、それだけ?」

「ええ…。事前に打ち合わせしておかなくても大丈夫なのかと言ったんだけれど…。直人くんはとにかく母に合わせてくれるだけでいいからとしか言わないの…」

「そうか…」

「ねぇ…。そんな事で本当に大丈夫なのかしら?」

「お母さんがそう仰るならば合わせるしかないだろうな。後は…仕事のように臨機応変にやるしかない」

「そうね。営業のスキルをフルに使うしかないわね…」

「今はあれこれ考えていても仕方ない。ほら、食べよう。冷めちまうぞ」

「うん!」

綾子は嬉しそうに料理を頬張った。

彼女にはああ言ったが、俺は内心穏やかではなかった。
お母さんを信じていない訳じゃないが…

綾子に言われたように、事前準備が出来ていないと筋道が立てられない。
ある程度の予備知識がないとこちらが主導権を握る事も難しくなる。

これじゃ、俺の方は五里霧中かもしれないな…。