得意先に向かう車の中で綾子はまだ不満そうにしている。

「綾子?まだ納得出来ないか?」

「なんだかタヌキかキツネに化かされたような感覚なのよ…」

「タヌキかキツネ?」

「母の事。今まで父に従順だった印象しかないの。その母が父の弱味を握ってるだとか、背水の陣に追い込むとか…現実離れし過ぎていて…」

「君が知らなかっただけで、お母さんはずっとお父さんをコントロールしていたのかもしれないぞ」

「そうかしら?それだったら母は相当だわ。全然そんな風に見えなかったもの」

「そこがお母さんのすごい所じゃないのかな?人にわかるようじゃコントロール出来ないからな」

「そうね…。従順に見せかけて実は自分の意のままに動かしていたかも…」

「女性は実に強いな」

「あら。私は母のようにはならないわよ。ちゃんと直人くんと話し合って決めていくわ」

「うん…綾子は綾子のやり方でいいと思う」