だがお母さんは変わらぬ様子で笑顔を湛えながら言ってくれた。

「年の事は関係ありませんわ。綾子が選んだ方なら…反対する理由なんてありません」

「お母さん…、ありがとう…」

綾子は既に涙ぐんでいる。

そこへ注文した料理が運ばれてきて、一旦話を中断した。
俺は居ずまいを正してお母さんに言った。

「必ず幸せにします。私の全てを懸けて綾子さんを守ります」

「どうぞ宜しくお願いしますね。それで一番厄介な主人の事ですが、全て私にお任せ下さいませんか?」

「と、仰いますと?」

「あの人の事は私が一番よくわかっていますの。弱味も握っておりますから、絶対に認めるように持っていきますわ。ですから安曇野さんは、私の指示通りにして頂きたいの。宜しいかしら?」

そこで綾子が質問を挟む。

「具体的にはどんな指示を出すの?それによってこちらも考えなきゃならないわ」

「いきなり一足飛びにはいきませんよ。お母さんのやり方でお父さんの頑固を崩していくから。ここという時に連絡するわ。それまであなたたちは何もしなくて大丈夫よ」

「なんだかスッキリしないわね…」

「綾子、こういう事はね、綿密な下準備が必要なの。伏線を張り巡らしておいて背水の陣に持って行き、最後は一気に回収しましょう」

「漠然とした話ね…」

「綾子…お母さんがそこまで仰るんだから、お任せしないか?それとも君に何か名案があるのか?」

「何も…ないわ…」

「だったらお任せしよう。きっと上手くいくから信じて待とう」

「直人くんがそう言うなら…わかったわ…」

そしてその後は食事を堪能しながら歓談し、お母さんと別れた。