そんな風に幸せすぎる毎日を過ごしていた俺だったが。
頭の片隅にはある一つの事がずっと残っている。

そう…
綾子の両親に会いに行くという事だ。

幸せに溺れ過ぎて忘れていた訳ではない。
やはり不安というか、億劫になっていた。

兄にも誓ったというのに私欲を優先してしまうとは俺もまだまだだ。

こういう事こそきちんとしなくてはいけない。

俺は綾子にその思いを話した。

「そうね…」

俺の隣でぐったりとして横になっている状態の綾子に言うべきではなかったかもしれない。
でもなかなか言えなくて今に至ってしまった。

「君も口論の末出て来てしまったという状況だから難しいかもしれないが、頼んでみてくれないか？」

「もうこのまま結婚しちゃいましょうよ」

「綾子…それはいけない」

「だって…」

「俺は、今更だがきちんと挨拶せずに君と暮らし始めた事はやはり良くないと思っている。順序立てて事を運ばないと賛成してもらえる事であってもしてもらえないかもしれない。君のお父さんは…昔気質な人なんだろ？」

「父の考えなら今の状態は憤慨するでしょうね」

「君のお父さんでなくても、娘が勝手に男と同棲なんてしたら怒るだろう」

「最近は理解のあるお父さんも多いって聞くけど」

「それはそれ、これはこれだ。綾子のお父さんは厳しい人だ、それは間違いない」

「ほんと…嫌になるくらいね…」

綾子はそう言ってため息をついた。

「とりあえず会えるかどうかの連絡だけはしてみてくれないか？」

「うん…わかった…」

渋々ではあったが、なんとか綾子の了解をとりつける事が出来た。

それから先は俺がなんとしてでも認めてもらえるよう、男を見せなければならない。