「あのぉ…俺の事、忘れてません?」

あっ!
そうだった!
俺たちは慌てて離れた。

「申し訳ありません!」 「ごめんなさい!」

そう言って二人で揃って頭を下げる。

「いやいや、いいんですけど…。見てる方が照れくさくなるっていうか…。良かったな綾、課長さんとうまく行って。これで俺の役目は終わりだ。お前は今日から課長さんトコ行け」

「え?」 「ええっ!?」

またしても綾子と俺の声が被る。

「だってもういいでしょう?二人見てたらほんとにアツアツだし…。これからだってそうやって見せつけられるのも辛いしなぁ」

「いえ、こんな事はもう致しません」

「いや、して下さいよ!綾子は初心だからね。ちょっとはいい刺激になって角も取れるから。ただし、二人っきりでね」

兄はそう言って俺にウィンクを投げた。

結局綾子の兄に押しきられ、俺たちは再び俺の自宅に舞い戻る。

「あの…ごめんなさい…」

縮こまって謝る綾子。

「ん?なんで謝るんだ?」

「だって…お兄さんたら自分のペースで言いたい事言って。私の事直人くんに押し付けて…」

「ハハハ…綾子…押し付けじゃなくて、これは嬉しい誤算だったぞ」

「そうなの?」

「願ったり叶ったりじゃないか。それとも…綾子は嫌なのか?いきなり俺と住むなんて」

「そんな訳ないじゃない!」

「だったらいいじゃないか。毎日君の顔が見れると思うと楽しくて仕方ない」

「…ほんとに…直人くん、甘すぎ…」

「むしろ俺の方が綾子に嫌われないように気を付けないとな」

「えっ!?どういう事!?」

「だからその…会社ではめいっぱい虚勢を張ってる所があるから…家に帰ってリラックスしていたら君に幻滅されるかもしれない」